久保建英はなぜラ・リーガで通用するのか?レアル・ソシエダでの成長を分析
久保建英はなぜラ・リーガで通用するのか?レアル・ソシエダでの成長を分析
この記事はこんな人向け:久保建英ファンの方、日本人選手が欧州で通用する理由を知りたい方、お子さんにサッカーの技術的な話を伝えたい保護者の方。
「タケ・クボを止める方法など、存在しない」――スペインのサッカーメディアがそう書いたとき、日本中のサッカーファンが歓喜した。バルセロナのカンテラ(育成組織)で10代を過ごし、レアル・マドリードと契約を結び、数クラブへのレンタルを経て、今やラ・リーガの強豪レアル・ソシエダで欠かせない存在となった久保建英。日本人選手がスペイン1部で継続してスタメンを張り、チームの攻撃の中心を担う――かつては夢物語のように思えたシナリオが、現実のものとなっている。その背景には、幼少期から積み上げてきた圧倒的な技術と、欧州の壁に何度もぶつかりながら身につけた戦術的なたくましさがある。この記事では、久保建英のプレースタイルを多角的に掘り下げ、なぜ彼がラ・リーガという世界屈指の舞台で通用するのかを徹底的に分析していく。
久保建英とはどんな選手か?
幼少期からの天才:バルサカンテラへ
久保建英は2001年、神奈川県横浜市に生まれた。幼少期からその非凡な才能は際立っており、8歳でFC東京の下部組織に入団。その後まもなく、あの名門FCバルセロナのスカウトの目に留まる。わずか9歳でスペインへ渡り、バルサカンテラに加入したのは2011年のことだ。世界中の才能が集まるカンテラで揉まれた経験は、久保の技術的土台を形成するうえで決定的な意味を持った。パスを丁寧につなぐバルサのスタイル、ポジションの概念、狭いスペースでのボールコントロール――これらはすべて、子ども時代のバルセロナで体に刻み込まれたものだ。
しかし、国際移籍に関するFIFAの規定違反によって2015年にバルセロナを離れることを余儀なくされ、FC東京に戻った久保は、高校年代でありながらトップチームの試合に出場するという異例の経歴を歩む。2019年にレアル・マドリードと契約を結んだことは日本中を驚かせたが、当時18歳の若者にとっては、これがヨーロッパでの再出発を意味していた。
レアル・ソシエダでの覚醒
レアル・マドリードに所属しながらも、当初は各クラブへのレンタルが続いた。マジョルカ、ビジャレアル、ヘタフェ、セビージャ――スペインの複数クラブを渡り歩くなかで、久保は欧州のフィジカルの壁、守備の組織的な厳しさ、そしてラ・リーガ特有のポジショニングゲームを学んでいった。レンタル生活は一見すると遠回りに映るかもしれないが、それぞれのクラブで異なる戦術を経験したことが、久保の「どんな状況にも適応できる柔軟性」を育てた。
転換点となったのは、2022-23シーズンのレアル・ソシエダへの完全移籍だ。バスク地方の名門クラブに腰を落ち着けた久保は、まるで水を得た魚のように輝きはじめる。チームとのフィーリング、監督のイマノル・アルグアシル(当時)との信頼関係、そして「攻撃を任せてもらえる」という安心感が、久保の才能を一気に開花させた。2022-23シーズンにはリーグ戦で8ゴール・11アシストという数字を記録し、ラ・リーガを代表するアタッカーの一人として名を刻んだ。
久保の3つの武器
1. テクニックとボールコントロール
久保建英の技術的な特徴を一言で表すとすれば、「ボールを自分のものにする力」だ。どんな体勢でボールを受けても、次の瞬間には自分の思い描くプレーへとつなげてしまう。バルサカンテラで鍛えられたファーストタッチのクオリティは特筆もので、速いパスが来ても、体が流れそうな状況でも、トラップが乱れることがほとんどない。
特に印象的なのは、「プレーの選択肢の多さ」だ。ボールを受けた瞬間に、シュート・ドリブル・パスの三択を同時に頭に描いており、相手守備陣の対応を見てから最善手を選び取る。この判断の速さはラ・リーガの厳しい守備組織のなかで培われたものであり、久保が欧州でのレンタル生活で本当に得た財産のひとつだ。また、クロスバーを叩くような惜しいシーンでも、シュートまでの流れは常に洗練されている。フリーキックでも精度の高いキックを蹴れるため、セットプレーでも脅威を与えられる万能性がある。
2. 狭いスペースでの突破力
ラ・リーガは組織的な守備が発達しており、広大なスペースを使って一気に突破するようなプレーは通じにくい。その代わりに求められるのが、ブロックを崩す「個の技術」だ。久保はまさにこの点で秀でている。密集した守備ブロックの間を縫うようにしてドリブルで侵入し、一瞬の間とボールタッチの鋭さで相手の重心をずらしてしまう。
久保のドリブルは「スピードだけに依存しない」という点が特徴的だ。トップスピードの絶対値では欧州の屈強なサイドバックに劣ることもあるが、緩急・体の入れ替わり・フェイントの組み合わせによって相手を出し抜く。特に、相手が飛び込んでくる瞬間を見極めてボールを引いてかわす技術は、バルサで培われた「テクニックで勝負する」DNAそのものと言える。右サイドを主戦場としながらも、内側に切り込んでから左足でシュートを打つパターンと、縦に突破してクロスを上げるパターンを使い分けることで、守備陣を常に二択に悩ませる。
3. シュートとゴール前の冷静さ
スペインのメディアが久保を高く評価する理由のひとつに、「ゴール前での冷静さ」がある。決定機で慌てない選手は多くないが、久保はペナルティエリア内でも落ち着いてシュートを選択し、コースを狙い打つことができる。それはバルサ時代から身についた「急がないこと」の文化が根底にあるのかもしれない。
得点だけでなく、アシストへの関与も多い。崩しの局面でラストパスを選ぶか、自らシュートを打つかの判断が適切であり、チームの流れを読んだプレー選択ができる。リーグ戦でのゴールとアシストを合わせた「ゴール関与数」は、ソシエダの攻撃においていかに久保が中心的な役割を担っているかを物語っている。ビッグマッチでこそ力を発揮する精神的な強さも、欧州での経験が磨いたものだ。
弱点と課題
完成度の高い久保建英にも、当然ながら弱点や課題は存在する。最もよく指摘されるのが、フィジカルコンタクトへの対応だ。久保の体格は欧州のフィジカルエリートと比べるとやや細く、体をぶつけてきたり、腕でブロックしたりする守備に対しては球際で劣勢になる場面がある。特にパワー系のセンターバックやサイドバックが「身体を使って潰す」守備をしてきたときに、ボールを奪われてしまうケースが一定数見られる。もちろん、こうした課題への対応力は年々上がっているが、プレミアリーグなどさらにフィジカルが求められるリーグで通用するかどうかという問いに対しては、まだ完全な答えが出ているとは言いにくい。
また、「爆発的なスピードで一発で局面を切り裂く」能力については、三笘薫のような純粋なスプリント型のウィンガーと比べると見劣りする面がある(三笘薫のプレースタイル分析は別記事で詳しく解説しています)。久保が勝負するのはスピードの絶対値ではなく、技術とインテリジェンスであるため、相手が徹底的にスペースを消してきたときには突破の糸口を見つけにくくなることもある。試合によって出来不出来の波が出やすい点も、より完成した選手になるための課題のひとつだろう。
日本代表での役割
久保建英は日本代表においても欠かせない存在だ。代表チームでは主に右サイドハーフ、もしくはトップ下に近いポジションを担い、攻撃の創造性を担う役割を与えられている。三笘薫が左サイドで縦への突破を武器にするのに対し、久保は右サイドからカットインし、中央でのコンビネーションや精度の高いクロスでチャンスを演出する。この2枚看板の存在は、日本代表の攻撃をより多彩にしており、どちらか一方に対応しようとすると、もう一方に崩されるという守備側のジレンマを生んでいる。
2026年ワールドカップに向けては、久保がいかに代表のシステムに組み込まれるかが注目ポイントだ(W杯に向けた日本代表の展望については別記事で詳しく解説しています)。クラブでのパフォーマンスを代表でも継続できるかどうか、また怪我なく大会を迎えられるかどうかが、日本代表のベスト8以上という目標達成に直結する。久保の「10番タイプ」の選手としての成熟度が、代表チームの攻撃的なアイデンティティを形成するうえで、今後さらに重要な意味を持つことになるだろう。
久保建英から学べること
久保建英のキャリアは、「才能があっても一直線には進まない」という現実を体現している。バルセロナというサッカー界最高峰の育成環境にいながら、規定違反で離脱を余儀なくされ、レアル・マドリードに加入しながらも複数クラブへの長いレンタル生活を経験した。それでも腐らず、それぞれの場所で貪欲に学び続けた姿勢が、今のソシエダでの輝きにつながっている。
技術的な観点から学べることもある。久保のプレーは「個人技と戦術理解の融合」の好例だ。いくら技術が高くても、チームの中でどう動けばいいかわからなければ生きてこない。逆に、戦術を理解していても個人で局面を打開できなければ、今のラ・リーガでは通用しない。久保はその両方を高次元で持ち合わせており、「どうすれば限られたスペースでボールを生かせるか」「味方を使いながら自分も得点できるか」という問いへの答えを、プレーで示し続けている。若いサッカー選手にとって、久保建英は技術だけでなく「考え続ける姿勢」の手本でもある。
まとめ
久保建英がラ・リーガで世界に通用する理由は、一つではない。バルサカンテラで培われたテクニックの土台、欧州各クラブを転々とする中で身につけた戦術への適応力、そしてゴール前での冷静さと創造性――これらすべてが組み合わさって、「タケ・クボ」という唯一無二の選手が生まれた。弱点がないわけではなく、フィジカル面や試合の波を抑える安定感にはまだ伸びしろがある。しかし、2026年ワールドカップを控えた今、久保建英は日本サッカー史上でも最高レベルの選手として欧州のピッチに立っている。その進化の途中にある姿を見届けることが、今のサッカーファンに与えられた特権と言えるかもしれない。
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少年サッカーコーチ視点から: 久保選手のキャリアで印象的なのは「遠回りを恐れなかった」点です。レンタル生活を「失敗」と見るのは外側からだけで、本人は毎クラブで確実に吸収していた。子供たちにも「上手くなる道は一本じゃない」と伝えるとき、久保選手の話をします。ポジション争いに負けた試合があっても、次を向く姿勢が大事だと。